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合併症を予防する為に血糖値の安定と血液循環の改善が大切です。
糖尿病とは、血液中の糖(血糖)の量が慢性的に多くなる病気です。そして、ある一定以上の血糖値になると尿に糖が出るようになります。
血液中に糖が多い状態が長期間続くと、次第に血管や神経が痛めつけられ、腎臓、目、神経をはじめとする、全身各所に障害を起こします。
また、糖尿病は進行が進まないと自覚症状があらわれにくく、本人が病気に気づいていないこともよくあります。
糖尿病のほとんどは、糖尿病になりやすい体質の方に、過食、ストレス、運動不足、肥満、妊娠、大量飲酒などの環境が重なったときに発症します。日本人の3割は糖尿病にかかりやすい体質であると言われ、現在、糖尿病とその予備軍の人が約1370万人いると推計されます。
○血糖を調整する中心的な役割のインスリン
食事をすると、糖質は胃腸でブドウ糖にまで分解され吸収されて血液中に入ります。それが肝臓に入ると、血糖値が上昇したことを感知した膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞はインスリンを分泌します。インスリンは肝臓や筋肉に働きかけ、血液中のブドウ糖からグリコーゲン(エネルギー源)を合成させ細胞内に蓄積させます。この仕事が十分に行われないと血糖値を正常に蓄えることが出来なくなります。
○膵臓でのインスリン分泌異常
・免疫異常などで、β細胞の9割以上が破壊されインスリンがほとんど分泌されない状態(Ⅰ型・インスリン依存型糖尿病)
・血糖上昇を感知しインスリンを分泌するβ細胞の機能異常により、インスリンの分泌量がたりなかったり、分泌のタイミングが遅れた状態(Ⅱ型・インスリン非依存型糖尿病)
○細胞でインスリンがうまく働けない
インスリンの分泌はそれほど悪くないのに、肝臓や筋肉などの細胞に対して、インスリンの効果を発揮できずに、高血糖になる状態(インスリン抵抗性)
糖尿病の主な合併症
長年、糖尿病を患っていると、全身に様々な合併症が起こることがあります。中でも代表的なものは「網膜症」「腎症」「神経障害」です。網膜症が進行すると失明にいたり、腎症が進行すると腎不全により透析治療が必要になってしまいます。神経障害は全身にさまざまな影響を与えますが、足先などの細胞が死に壊疽を起こし切断しなければならないこともあります。
漢方薬はご本人の証(体質や症状)に合った処方を使用することが大切です。
糖尿病によく使用される代表的な処方(症状で分類)
○口渇・多飲(こうかつ たいん) -ノドが渇き、水分を多量に欲しがる
白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)-口渇が強く、冷たい物を多量に飲む、多食、発汗、顔面紅潮など
麦味参顆粒(ばくみさんかりゅう)-口渇、だるい、疲れやすい、微熱、息切れなど
○疲労倦怠
香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)-疲労倦怠、食欲不振、吐き気、軟便、みぞおちが重苦しいなど
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)-疲労倦怠、寝てもだるい、食欲不振、軟便または便秘など
西洋人参(せいようにんじん)- 疲れやすい、やる気がでない、口が乾く、など
○多尿 -小便の量が多い、頻尿、
八仙丸(はっせんがん) -多尿、頻尿、口やノドの乾き、足腰がだるい、カゼをひきやすいなど
瀉火補腎丸(しゃかほじんがん)-多尿、頻尿、口の乾き、足腰がだるい、手足のほてり、顔面紅潮など
八味地黄丸(はちみじおうがん)-多尿、夜間頻尿、足腰がだるい、手足が冷えるなど
その他-グリコヘモグロビンA1cや血糖値の改善を期待した薬草や生薬処方
クマザサエキス(ササヘルス)、桑の葉、錫蘭葛(しゃくらんかづら)、五衡丹(ごこうたん)、食用蟻製剤(イーパオ)など
糖尿病の検査値
尿糖検査
尿中にブドウ糖が排泄されているかどうかを調べる検査です。試験紙は薬局でも売っていて自宅で出来る手軽な検査です。ただし、糖尿予備軍や初期では尿糖には出ない場合も多いのが欠点です。(正常はマイナス・陰性)
尿中ケトン体検査
「ケトン体」は体内の脂肪をエネルギーとして燃焼したときに出る物質で、ブドウ糖をエネルギーとして使えなくなった時に増加し、一定量を超えると尿中に排泄されるようになります。この状態では糖尿が進行し、やせてきます。(正常はマイナス・陰性)
血糖検査
血液中のブドウ糖を調べる検査です。検査当日は朝食を食べない空腹の状態で血糖値を調べます。(正常値70~110mg/dl)
経口ブドウ糖負荷試験
空腹時血糖検査では診断がつかないときに行います。まず、空腹時血糖値を測り、その後、75gのブドウ糖液を飲んで時間を追って血糖値の変化を調べます。
(正常値は1時間値160mg/dl未満、2時間値120mg/dl未満) 2時間値200mg/dl以上で糖尿病と診断します。
グリコヘモグロビン検査
血液中のグリコヘモグロビンA1cという物質を測ると、検査前1~2ヶ月の平均の血糖値の状態を知ることが出来ます。この値が多いほど血糖値が高いことを示します。
(正常値4.3~5.5%)
糖尿病の漢方治療症例
症例1
男性58才 会社員 身長164cm 体重68kg
糖尿といわれて2年、空腹時血糖値200~240、グリコヘモグロビン7.5、自覚症状は少し疲れやすい。血流計では台形型(血液が流れるのに抵抗がかかっている)。病院で内服の薬をもらっている。グリコヘモグロビンが下がらないようだとインスリンの注射が必要といわれて、なんとかしたいと来局。
糖尿の特徴的症状である、口渇、多食、多尿の症状はない。なるべく早く、グリコヘモグロビンを下げたいというので、食事管理と運動の必要性も話しながら、食用蟻製剤、クマザサエキスなどを服用してもらいました。
服用開始から4ヶ月後、病院での検査結果は空腹時血糖120、グリコヘモグロビン5.9になり、数字が良くなってきたので、これならインスリンの注射は必要ないと言われたと、喜ばれました。その後、グリコヘモグロビンは5.6~5.8で安定しています。
この方は、食事や運動などの生活面の改善もあり、4ヶ月で検査結果がかなり改善されました。一般的にはグリコヘモグロビンに関して3ヶ月から1年ぐらいで結果が現れてきます。もちろん、食生活が滅茶苦茶ではあまり効果は期待できません。
症例2
男性42才 トラック運転手 身長182cm 体重95kg
最近体のだるさと口の渇きが強く、病院へ行ったら糖尿病と言われた。血糖値が400を越えていたので、すぐ、入院するように言われたが、自営業のため入院はできないと言い、糖尿病の内服薬をもらって服用している。それから2ヶ月たち、血糖値は260~310前後、だるさと口渇も続いていて、このままだと入院治療になるといわれ、来局。小便は黄色く匂いが強い。ウーロン茶や炭酸飲料を1日2㍑ぐらい飲む。舌質は赤い。舌苔は黄色。
処方 滋補腎陰薬+清熱薬+クマザサエキス
早く効果を出すために、瀉火補腎丸と白虎湯の処方は煎じ薬で調合しました。
14日後、家庭用の血糖測定器で空腹時190、口渇は減ってきたが、1日1㍑ぐらい水分を取っている。甘い物はなるべく控えている。
28日後、血糖値160。医師から、このままなら、入院は必要ないといわれる。
4ヶ月後、血糖値110~160。
一時期の高血糖から比べればかなり安定しましたが、食生活で変動がありますので、安心しきってしまわないようにアドバイスしています。