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多嚢胞性卵巣症候群と漢方薬について

目次

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

PCOSは卵巣の嚢胞性変化と排卵障害に基づく月経異常(無月経の場合もある)や不妊を訴えるものをさします。
卵巣中に5mmほどの卵胞が多数存在する中卵胞の段階の排卵障害を起こします。
PCOSでは、多毛・肥満・ニキビなどの症状もみられることが多いです。

PCOSは現代医学的に原因が確定していませんが、視床下部-脳下垂体-卵巣の機能失調によるものと、考えられています。
中医学的にみると、主に腎(生殖器系・ホルモン・水分代謝)・脾(消化器系・水分代謝)・肝(情緒・自律神経)の不調が見られることが多く、これらを改善していくことで、PCOSを治療していきます。

多嚢胞性卵巣症候群の5つのタイプ漢方治療

中医学では、PCOSの方を大きく5つのタイプに分類して、それぞれに合った治療を行います。

(代表処方は明正薬局で臨床上使用している漢方薬・栄養剤などです。)

○腎虚痰濁(じんきょたんだく)タイプ

不妊・月経が少ない、無月経、足腰がだるい、肥満体型、月経不順とともに体重が増加してきた、多毛、精神疲労、胸苦しい、吐き気がする、便通不調(軟便・すっきりでない)、舌の色が淡く、舌の苔が厚い、など
・治法    補腎化痰
・代表処方 温補腎陽薬+化痰利湿薬

○腎虚血於(じんきょおけつ)タイプ

不妊・月経が少ない、月経量が少ない、あるいは少量がダラダラ続く、月経血の色が暗紅色、レバー状の塊がある、月経痛(腹痛)、足腰がだるい、肌荒れ、ニキビ、舌の色がやや紫っぽい、舌の苔がやや黄色、など
・治法    補腎化於
・代表処方 補腎薬+理気活血薬

○腎虚血虚(じんきょけっきょ)タイプ

不妊・月経が少ない、月経量が少ない、無月経、月経血の薄い、月経後にめまいや頭痛が起きやすい、足腰がだるい、肌のかさつき、顔色が悪い、冷え症、舌の色が淡く、舌の苔が少ない、など
・治法    補腎補血
・代表処方 補血薬(当帰剤)+補腎薬

○腎虚肝鬱(じんきょかんうつ)タイプ

不妊・月経が少ない、月経量が少ない、月経痛(腹痛)、イライラしやすい、胸の張痛、お腹が張る、ガスがたまる、ゲップが良く出る、便通の不調、足腰がだるい、肌荒れ、ニキビ、など
・治法    補腎疏肝
・代表処方  疏肝理気薬+補腎薬

○肝火挟痰(かんかきょうたん)タイプ

不妊・月経が少ない、月経量が少ない、あるいは少量がダラダラ続く、月経血の色が暗紅色、レバー状の塊がある、体毛が毛深い、赤みの強いニキビが多い、のどが渇き冷たい物が欲しい、イライラしやすい、のぼせ、便秘、、小便の色が濃い、舌の苔が黄色、など
・治法    清肝瀉火・化痰
・代表処方 清肝瀉火薬+化痰理血薬

上記の処方は、あくまで代表処方です。実際は患者様ご本人の体調により処方が変わります。また、PCOSの治療にも周期療法を行った方が治療効果がよいです。(周期療法を行う場合は、上記のタイプに合った処方を全周期にわたって使用し、各周期にはそれぞれの漢方薬を併用していきます。)

多嚢胞性卵巣症候群の漢方治療は、比較的時間がかかる場合が、多いです。当薬局での臨床上、妊娠までの6ヶ月~2年の期間を要しています。ただ、あせらず、治療をしていただくことでPCOSの改善と妊娠に結びついています。

 

・多嚢胞性卵巣症候群の漢方治療の症例

  ①29才  女性(伊豆の国) 結婚4年  妊娠歴ナシ  身長160cm 体重49kg    専業主婦

不妊症の診断   多嚢胞性卵巣症候群
服用薬        クロミッド(服用1年)、クロミッドを服用する前は基礎体温が1相だった。
基礎体温のタイプ  H-2型
月経周期  30~45日
月経期間  3~5日間
月経血  茶色・レバー状の塊がある
生理痛  あまりない・イライラする
排卵頃のオリモノ 自覚なし
その他の症状 手足の冷え・疲れやすい・便秘(コロコロの兎状便)・口が粘る

漢方処方
全周期-補血薬(当帰製剤)
月経期-血流改善の漢方
低温期-滋補腎陰薬+ピクノジェノール製剤+カキ肉エキス
高温期-温補腎陽薬+プラセンタ製剤

月経周期がはっきりせず、排卵期が分かりにくいために、排卵用は使用せずに高温になるまで低温期用を服用していただきました。

経過-漢方薬服用から4周期目ごろから月経周期が30日前後に安定。また、排卵頃のオリモノをを感じるようになった。

7周期目で高温期が続き、産婦人科にて妊娠と診断。(自然妊娠)

 

②32才 女性(三島市)結婚3年 不妊歴2年 妊娠歴ナシ  身長154cm 体重47kg  会社員

不妊症の診断 多嚢胞性卵巣・黄体機能不全
服用薬・治療履歴 クロミッド+人工授精を3回、クロミッド+hcg+人工授精を3回、
基礎体温のタイプ F-2型
月経周期 27~29日
月経期間 6日間
月経 やや暗紅色
生理痛 強い(腰)
排卵頃のオリモノ 無色で粘る(1日)
その他の症状 だるい、眠りが浅い、イライラ、めまい、立ちくらみ、目の疲れ、胃もたれ、アレルギー性鼻炎、

漢方処方
全周期-補血薬(当帰製剤)
月経期-血流改善の漢方+ピクノジェノール製剤
低温期-滋補腎陰薬+ピクノジェノール製剤
排卵期-血流改善の漢方薬+疏肝理気の漢方薬
高温期-温補腎陽薬+プラセンタ製剤

経過-漢方周期療法3周期目に人工授精を行い、妊娠。
ご本人のコメント-今まで人工授精を6回行ってきたが、1度も妊娠したことが無く、漢方薬服用してから初回の人工授精で妊娠して驚いています。体調に気を付け元気な赤ちゃんを産みたいです。

その後、元気な女の子(2980g)をご出産になられました。