私ども明正薬局では、不妊症の漢方的なタイプを大きく7つに分けて、それに合った治療を行っています。
今回は、不妊症のタイプのうちの月経周期が短い・体のほてり・年齢が高い方に多いタイプ(肝腎陰虚)をご紹介します。
目次
肝腎陰虚(かんじんいんきょ)
月経周期が短く(24日以下)・月経血の色が濃い、めまい、耳鳴り、手足のほてり、微熱傾向、寝汗、 口の渇き、足腰がだるいなどの症状が特徴です。
子宝に恵まれるためには、子宮や卵巣の働きが整って、女性ホルモンの分泌も正常であることが大切です。
人の成長発育・生殖機能の発達は、漢方医学では腎(じん)の働きによると考えられています。両親から受け継いだ生命エネルギー(先天の精)は腎で蓄えられ、食べ物や空気から得られた気(後天の精)を補充して力を増していき、生殖能力が高まっていきます。
この腎の機能の善し悪しが、生殖器や各種ホルモンの働きを左右し、生理周期・妊娠のしやすさと関係します。
また、月経の出血がある女性にとって、体の「血」の過不足は体調や生理周期の状況を左右します。
漢方医学で言う「肝」は血を蔵し、生理周期の安定に大切な働きをもつ内臓です。
漢方医学でいう「腎」とは、人の生命エネルギーを蓄えている場所で、小水の調節(泌尿器)・女性ホルモンや男性ホルモンなど内分泌系の調整と活動にとって不可欠なエネルギーやその働きをさします。
腎の働きは、
などです。
すなわち、腎の充実=成長、腎の衰え=老化です。
人が産まれて成長してくると、毛髪が増え、足腰が力強く、骨格がしっかりしてきます。そして、女性なら生理が始まり、子供をもうけることができるようになります。やがて、年を取っていくと生理が乱れ、やがて止まり、髪は抜け腰や骨が弱くなり、耳の聞こえが衰えていきます。
腎の衰えは、年齢以外に過労や過度の性生活などでも起こっていきます。
肝は血(栄養・潤い)を蔵し、気血の流れをコントロール(疏泄)する働きを持ちます。肝経が乱れると月経周期や月経量が不調になり、月経痛も起こりやすくなります。
肝の一部とされる「目」の酷使やストレスが続くと肝の疏泄作用が乱れて肝の働きを悪くしてしまいます。
パソコンやスマホによる目の使いすぎや仕事や家庭でのストレスが多い現代では、肝に負担をかけてしまいます。
臨床では、女貞子、枸杞子、旱蓮草、山茱萸などの生薬を配合した漢方薬を使用します。
亀鹿仙(きろくせん)+二至丹(にしたん)
杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)+二至丹(にしたん)
瀉火補腎丸(しゃかほじんがん)+牡蛎肉エキス
亀鹿仙(きろくせん)+杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)などの組み合わせ
不妊症の漢方相談は、伊豆の国市以外に伊豆半島全体や三島、沼津、静岡、横浜、名古屋などからも患者さんが相談にいらっしゃいます。
また、メール相談により、北海道から九州・沖縄まで漢方薬を発送しております。
【症例1】37歳女性・静岡県伊豆の国市在住・不妊歴3年・妊娠歴1回・流産1回、出産歴0回、身長162cm・体重55kg・会社員
病院で3年治療。体外受精を3回行い一度妊娠するも、心拍を確認できず流産。
漢方での体調改善を目的に来局されました。
症状
月経周期が短い(23~25日)、月経期間は3日間(出血色が濃く少量)、足が疲れやすく夜ほてり眠りづらい、時々寝汗をかく。腰もだるさを感じる。頭のふらつき、目が疲れやすく、乾燥する。最近、肌や髪がぱさつく感じが強くなる。口が乾きやすい、など。
処方
全周期にわたって、杞菊地黄丸+二至丹(にしたん)
月経期-月経3日間、桂枝茯苓丸
低温期-月経4日目から排卵までヴァイタルゲン(牡蛎肉+クマ笹)を併用。
高温期-高温になってから月経がくるまでプラセンタ製剤を併用。
経過
初めの服用量が多く飲むのが大変でしたが、だんだん慣れました。
服用1ヶ月後、あまり変化無し。低温期に亀鹿仙を追加。
服用3ヶ月後、体の疲れが楽になった。月経周期がまだ短い(24日)
服用6ヶ月後、今回月経周期が26日だった。
服用8ヶ月後、再度、体外受精を行い、妊娠を確認。
妊娠を安定させる漢方薬を安定期(16週)まで服用し、その後無事に出産。
【症例2】38歳女性・静岡県沼津市在住・不妊歴3年・体外受精3回・妊娠歴0回・身長157cm・体重49kg・会社員
3年前に結婚し、すぐに不妊治療を始めた。今まで体外受精を行ったが一度も妊娠できない。採卵できた数も少なく、受精できた数も1回に1つずつだけだった。
症状
月経周期は24~26日くらい、以前よりも短くなっているようだ。月経痛はあまりない、出血は3日くらいで量は少ない。疲れやすい(特に足腰がだるくなる)、口が乾きやすい、パソコンを1日中見ているので夕方になると目が乾燥し、疲れる。便秘ぎみ、夏は手足がほてり寝つきづらい、たまにめまいや立ちくらみがある。(特に生理後)、口内炎ができやすい、など。
処方
全周期にわたって、杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)+クマザサエキス
低温期-月経4日目から排卵まで亀鹿仙(きろくせん)を併用。
高温期-高温になってから月経がくるまでプラセンタ製剤を併用。
経過
服用1ヶ月後、なんとなく調子がよい感じがする。具体的には言えないが。
服用3ヶ月後、ひきつづき体調は良い感じ。疲れや目が楽になった。月経の量はまだ少ない。3日間で終わる。
服用4ヶ月後、最近、眠りが浅く目が覚めやすいことが気になるため、天王補心丹(てんのうほしんたん)を補助的に追加。
服用5ヶ月後、眠りが比較的良くなってきた。再度、病院の体外受精を行う予定。
服用7ヶ月後、体調は安定している。採卵で4つ採れ、3つ受精。今までで一番よい。
服用8ヶ月後、病院で妊娠を確認。
安定期まで妊娠中に良い漢方薬と栄養剤を服用。
静岡県伊豆の国市古奈426-6
漢方相談 明正薬局
薬剤師・国際中医A級 福本哲也
無月経、生理周期があまりにも不定の方は、まず、ある程度生理の周期を整える必要があります。
また、子宮や卵巣の炎症が強い場合にも、そちらの治療を優先して行う必要があります。
以上が周期療法の大まかな説明ですが、なかなか赤ちゃんが出来ない場合は女性側だけの問題という場合は少なく、男性側にもなんらかの不調がある場合が多いので、男性の精子(数や活動率)の状態を調べていない方はできれば一度調べられることをお勧めします。
実際の治療では、どちらか片方の方だけ、漢方治療をするよりも、ご夫婦ふたりでそれぞれにあった漢方薬を服用する方が妊娠率は高まります。